「タバコを吸うとなぜ口臭が強くなるのか?」
そんな質問を投げかけられたら、おそらく多くの方は「タバコそのものがクサイから」とお答えになるのではないでしょうか。
確かにタバコにはニコチンやタールといった、ニオイの強い成分が含まれていることは確かです。
しかしタバコはそこに含まれる成分以外にも、口臭を強くする要因が隠されています。
今回はタバコを吸うとなぜ口臭がきつくなるのか、またタバコがお口の中に与える影響などについてお話ししていきたいと思います。
目次
タバコを吸うと口臭が強くなる原因
それではまず最初に、タバコによって口臭が強くなる原因について詳しくみていきましょう。
ニコチン・タールなどタバコの成分
タバコを吸った直後の息のニオイ、それはまさしくタバコに含まれる成分によるものです。
タバコにはニコチンやタールをはじめ、硫化水素、アンモニア、アセトアルデヒドといったニオイ成分がふんだんに含まれています。
これらの成分は歯や歯ぐきにも吸着しやすく、口臭を強くする原因になっています。
お口の中が乾きやすくなる
喫煙者の方であれば、タバコを吸った後にお口の中が乾きやすくなる経験を皆さんお持ちではないでしょうか。
これはタバコのニコチンや一酸化炭素といった成分に、唾液の分泌を抑制する性質があるからです。
その唾液にはお口の中を清潔に保つ働きがあり、唾液が少なくなるとお口に汚れがたまりやすくなるほか、雑菌も繁殖しやすくなります。
特に口臭の原因となりやすい「舌苔(ぜったい)」は唾液の分泌と深い関係があり、唾液の量が少なくなるほど舌に舌苔がつきやすくなります。
つまりタバコを吸うことで唾液の分泌が少なくなると、お口の中が不潔になって口臭が強くなってしまうのです。
歯周病になりやすい
タバコによる口臭の増悪で最も注意しなければならないのが、歯周病です。
お口由来の口臭の9割は歯周病によるものといわれています。その歯周病を悪化させる大きな要因となるのがタバコです。
歯周病になると、歯周病菌が作り出す揮発性ガスが独特な臭気を放つようになります。具体的には、
- 硫化水素:卵の腐ったようなニオイ
- メチルメルカプタン:玉ねぎが腐ったときのニオイ
- ジメチルサルファイド:生ごみのニオイ
などの揮発性ガスが、強いニオイの口臭を発生させてしまいます。
上記の3つのガスの中でも特にニオイが強烈な「メチルメルカプタン」は、歯周病の症状が進むにつれて濃度が上昇することがわかっています。
つまりタバコの影響によって歯周病が悪化すると、タバコの成分以外にも他人を不快にさせる強烈なニオイの口臭を生み出してしまうというわけです。
タバコがお口の中に与える5つのデメリット
タバコが身体にとって「百害あって一利なし」ということは多くの方がご存じですが、これはお口の健康に関しても例外ではありません。
では具体的にタバコがお口の中にどのような弊害をもたらすのか、以下に詳しくみていきましょう。
歯や歯ぐきが黒くなる
タバコを吸うと歯が茶色に着色します。これはタバコに含まれるタール(ヤニ)が歯の表面に付着するからです。
このタールは粘り気が強く、一度歯に付着してしまうと歯磨きだけで落とすことはできません。
そしてこのタールは歯の表面だけでなく、歯ぐきにも付着します。
さらにタバコに含まれる一酸化炭素は歯ぐきの血流を悪くするため、歯ぐき全体が黒ずんで見えるようになってしまいます。
歯周病が発見しにくく、重症化しやすい
先にも少し述べましたが、タバコは歯周病を増悪させる要因となります。
その理由の1つが、タバコの成分によって歯ぐきの免疫力が低下してしまうことです。歯周病は歯周病菌が歯ぐきに感染することで発生しますが、タバコによって歯ぐきの免疫力が弱くなると歯周病菌に感染しやすく、歯周病を悪化させてしまいます。
また喫煙によって歯周病の発見が遅れてしまうことも、重症化させてしまう要因です。
歯周病は「歯ぐきが腫れる」「歯ぐきから出血がある」というのが代表的な症状で、この症状が歯ぐきの病気を知らせる最初のサインとなっています。
しかしタバコに含まれる一酸化酸素によって血流が悪くなると、このような症状があらわれにくくなってしまうのです。
ただ症状がでていなくても、歯周病は刻々と進行していきます。通常であれば腫れや出血で早期に発見できたはずの歯周病が、タバコの影響によって発見が遅れてしまい重症化を招いてしまいます。
歯周病が治りにくい
タバコに含まれる有害な成分は、歯ぐきの修復能力も低下させてしまいます。
そのため喫煙者がどんなに歯周病の治療に励んでも成果がでるのは難しく、また一度改善がみられたケースでも再発する確率が高くなります。
このことから歯科医の多くが歯周病治療を始めるに際し、禁煙することを推奨しています。
口腔ガンのリスクが高くなる
タバコによって肺がんのリスクが高まることは広く知られていますが、お口の中にできるガンのリスクも高まることはあまり知られていません。
お口はタバコの煙に直接さらされるため、歯ぐきや粘膜の細胞を傷つけ、口腔ガンの発生リスクを高めてしまいます。
周囲の人のお口にも悪い影響を及ぼす
タバコによる受動喫煙の影響は、周囲の人のお口の中にも起こります。
家庭内に喫煙者がいる場合、その家族のお口の中にも上記に述べてきたような弊害を与えてしまいます。
特に小さな子供の場合、両親のいずれか喫煙者であると歯ぐきの色素沈着や虫歯のリスクを高めることが様々な研究で明らかになっています。
まとめ
タバコはそこに含まれれるニオイ成分だけでなく、お口の中の乾燥や歯周病の悪化によってさらに口臭を増悪させてしまいます。
またタバコによる影響は自身だけでなく、身近な家族や周囲の人のお口の中にも悪い影響を及ぼしてしまうこともよく理解しておきましょう。
執筆の歯科医師
歯科医師として約10年働いてきた経験を元に、歯科の専門情報を皆さまにわかりやすくお届けします。