舌苔は「口臭の大敵」と思われがちですが、しかし口臭のない健康な人に舌にも舌苔は存在しています。
それではなぜ舌苔が口臭を強くしてしまうのか、またどのような舌苔が口臭の原因になってしまうのか、今回はその点に焦点を置きながら正しい舌苔のケアについてお話ししていきたいと思います。
舌苔で発生するガスの種類と口臭の種類
お口を臭わせる元となっているのは、口腔内に生息する細菌がつくりだす揮発性ガスです。現在口臭の原因となる揮発性ガスは、およそ20種類ほど確認されています。
では具体的に舌苔やお口の中でどのようなガスが発生しているのか、その臭い方についても詳しくみていきましょう。
舌苔で発生するガスの種類と、その臭い
口臭の中でも特に他人を不快にさせるとわれているのが、『揮発性硫化化合物』と呼ばれている揮発性ガスです。
お口の中で発生する揮発性硫黄化合物としては、以下の3種類が検出されています。
- 硫化水素
- メチルメルカプタン
- ジメチルサルファイド
この中でも特に舌苔から多く発生するガスは、メチルメルカプタンです。メチルメルカプタンは上記に挙げた3つの揮発性硫黄化合物の中でも特に強烈な臭いを発することで知られ、「玉ねぎの腐った臭い」「漬物の臭い」などと表現されます。
口臭のある人の口気にはいずれの揮発性硫黄化合物も検出されますが、特に口臭の強い人の口気はメチルメルカプタンの濃度が圧倒的に高いことがわかっています。
その他、お口で発生するガスの種類と、その臭い
お口の中で発生するガスには、先に述べた揮発性硫黄化合物のほか以下のようなものがあります。
低級脂肪酸
お口の中で発生する低級脂肪酸としては、酢酸や酪酸、イソ吉草酸といった物質が知られています。低級脂肪酸はいわゆる「酸っぱい口臭」の元となっています。
揮発性窒素化合物
お口の中に発生する揮発性窒素化合物は、アンモニアやインドール、トリメチルアミンなどの物質があります。
アンモニアは「おしっこの臭い」、インドールは「おならの臭い」、トリメチルアミンは「生ごみのような臭い」と表現されます。
口臭の原因となる舌苔は、奥にたまりやすい
舌苔は剥がれ落ちた上皮や食べかす、細菌、唾液の成分、タンパク質など様々な成分で構成されます。舌の表面に付着したこれらの成分は、通常舌の動きや唾液によって落とされていきますが、一部残ったものが舌苔となり口臭の原因となるガスを発生させます。
また舌苔の付き方や色などは人によって異なり、その時の体調や普段の生活習慣によって影響を受けることが多いことも舌苔の特徴の1つといえるでしょう。
ここでは舌苔の色や付着状態でどのようなことがわかるか、また舌苔のたまりやすい部位についてご紹介していきましょう。
舌苔の色別の種類と主な原因
舌苔が舌全体にうっすらと付いている
「舌苔=悪いもの」というイメージが強く持たれがちですが、舌苔がつくこと自体に何ら問題はなく、どんな方でも多少なりとも舌苔は付着します。
したがって付着している舌苔が少量で、舌の色がピンク色に透けてみえる程度であれば、特に何もする必要はありません。過度な舌の掃除はかえって舌を傷つけ、舌苔を増やす原因にもなるため注意しましょう。
舌苔に厚みがあり舌が白い
舌苔が舌の色が見えなくなるほど厚みを帯び、舌全体が真っ白になるようであれば、舌のお手入れが必要となります。ストレスや疲労がたまっていたり、病気などで免疫力が落ちている時などには、このような厚みのある舌苔ができやすくなります。
舌をクリーニングすると同時に、体調の管理に十分注意しましょう。
舌苔が黄色い
舌苔が白色でなく黄色を帯びる要因の1つは、コーヒーやタバコといった嗜好品による着色です。その他に風邪などで高熱がでた際や、慢性胃炎など消化器に異常がある場合にも黄色の舌苔が付着することがあります。
舌苔が黒い
お口の中の細菌バランスが崩れると、舌苔が黒くなってしまうことがあります。これは長期間抗生物質を服用した時などに起こりやすく、歯科ではこの状態を「黒毛舌」と呼んでいます。
ただ黒毛舌はその要因となっている抗生物質の投与が終了すれば、自然と治まるものなのでそれほど心配はありません。
舌苔がまったくついていない
舌苔がまったくついていないのも、決して正常ではありません。先述にもあるように舌苔がつくこと自体は決して悪いことでなく、適度な舌苔はむしろ舌のバリア機能としての役割を果たしています。
赤みの帯びた舌は、鉄分などの栄養素が不足していたり、過剰な舌掃除によって舌の表面が傷つけられている可能性があるので注意しましょう。
舌苔が奥にたまりやすい原因
先にもお話ししたように、通常舌苔を作り出す成分は舌を動かしたり、唾液や他の水分によって洗い流されます。
ただ舌を動かしてみるとわかるように、舌の奥のほうは前方ほど大きく動くことはありません。また喉に近い部位になるほどお口の中は粘り気が強くなるため、唾液によるクリーニング作用も働きにくくなります。
これらの理由によって舌苔は奥のほうほどたまりやすくなり、臭いの元となりやすいのです。
奥にある舌苔をクリニックで取り除く方法
最後に、舌苔のお手入れはどのようにしていけばよいのかをご紹介していきます。
奥にある舌苔をクリニックではこのように取り除く!
実際のところ舌苔のクリーニングは保険の診療内容には含まれていないため、積極的に舌クリーニングをおこなう歯科医院は少ないでしょう。
また舌苔の清掃については専門家の中でも賛否が分かれ、明らかに異常と思われる舌苔を除いては「それほど気にする必要はない」「無理に取り除くべきでない」という意見もあります。
ただ寝たきりで介護な必要な方やご高齢の方に対しては、口腔ケアとして舌のクリーニングをおこなっています。その場合は柔らかいスポンジや舌クリーナーを使って、舌苔を落としていきます。
自宅での舌苔ケア方法
水うがいをする
舌苔ケアの中でも、舌を傷つけることなく簡単におこなえるのが「水うがい」うがいです。水を少量口に含み、舌を上あごにこすりつけるようにして汚れを落としていきます。基本的に毎日のケアはこの「水うがい」で十分です。
シュガーレスのガムを咬む
舌苔の付着と唾液の量には深い関係があり、唾液が少なくなるほど舌苔は付きやすくなります。「ガムを咬む」という行為は唾液の分泌をうながす働きがあるため、舌苔の予防にも効果的です。
ただし糖分の入ったガムはかえってお口の中を乾燥させるほか虫歯の原因にもなるので、ガムは必ずシュガーレスのものを選びましょう。
舌クリーナーを使う
厚みのある舌苔に対しては、舌クリーナーがお勧めです。市販の舌クリーナーには様々な種類のものがありますが、ブラシ状のものよりヘラ状のもののほうが舌を傷つけずに舌苔を落とすことができます。
ただ過度な掃除は舌を傷めてしまうため、舌苔が多い時に1日1回の使用に止めましょう。
まとめ
お口が原因で発生する口臭のうち6割が舌苔から発生するガスによることを考えると、口臭対策として舌苔のクリーニングは効果的といえます。
しかし過剰なクリーニングは舌の表面を傷めてしまうほか、自然に備わった自浄作用が働きにくくなり、かえって口臭を強めてしまう原因になるため注意しましょう。
執筆の歯科医師
歯科医師として約10年働いてきた経験を元に、歯科の専門情報を皆さまにわかりやすくお届けします。